中医学的予防は食事のみならず、中薬、針、灸、推拿、気功など様々な方向から予防法が提案できます。
今日は中薬の予防戦略(治療戦略ではありません!)、専門家が勧める方剤、そして予防に生かせる日本の漢方(エキス剤)ついて書きます。

 もちろん大前提ですが、人の体質はそれぞれ違います。予防戦略も厳密にいうと人によって違います。中医学では、「中庸」を目指します。とても簡単に例えれば、冷え体質の人には暖める、熱がこもる体質の人は冷やす、湿っている人は乾かす、乾いている人は潤す、というようにベストバランスを目指す方法は人によって異なります。
 これから提案するのは、多数の方に適応できるであろう予防の処方です。

 食事編では、新型コロナウィルス感染症の中医学的特徴は「湿邪」と書きました。なので罹患しやすい人のベースの体質として「痰湿体質」「陽虚体質」の傾向があるはずと書きました。欧米で新型コロナウィルス感染症が爆発し、死亡率もアジアより高く、罹患層は若年にまで広がっている理由として、中医学的推測では、やはり欧米の食生活はアジアよりカロリーが高く、「痰湿体質」の人が多いからとも考えられます。マクドナルドを食べ、冷えたソフトドリンクを大量にのむ生活の人は痰湿体質になるのが当然です。

 「痰湿体質」を是正する薬で予防、と考えたくなりますが、実は痰湿とは、体にまとわりついたベトベトねちゃねちゃなので、短期間でとれるものではありません。
 その代わり、短期間で補えるのは「気」です
 人の中に「気」は4種類あります。衛気、営気、宗気、原気です。感染症対策では、まず「衛気」を固めることから始めます。
 「衛気」とは、人の表面を漂う気で、外敵から体を守り、そして毛穴を開閉し汗や体温を調節をする機能を持ちます。目が覚めている時は体表を漂うが、入眠すると人体の中に入り込む性質があります。人は起きている時間は薄着でよくても、睡眠時に同じ格好でいると邪気が侵入し病気になりやすいです。寝るときは衛気が守ってくれないので掛け物をします。
FullSizeRender


 この衛気が弱い、または体内の営気と連合がとれない場合は、暑くもないのにちょっとしたことで汗が出ます。自汗が止まらない人はよくいます。代謝がいいわけではなく、衛気が正常に働いていない兆候です。もちろん病気になりやすいです。国境の守備が弱いと、敵も侵入しやすいし自国の資源や民も他国に逃げやすい、そんな状態です

FullSizeRender


  感染症に対する中医学的予防戦略は、まずこの衛気を固める、強くすることが手っ取り早いと考えられます。特に普段から「気虚(気が弱くなっている)」の兆候がある人(顔に艶がなく蒼白または黄色、四肢に力が入らない、元気がない、眠い、脈が虚軟、自汗あり)の人は気を補う必要があります。ここで、中国の多くの有名中医師がすすめる気を補う方剤が、「玉屏風散(ぎょくへいふうさん)」です。中国では昔から広く使われている薬です。日本では保険適応はありませんが、一般用医薬品としてドラッグストアやアマゾンで買えます
C6397ED7-F406-4DBB-BF58-A884BB125F1B

玉(のように素晴らしい)屏風(びょうぶ)ができるという意味のネーミングで、益気固表(気を補い体の表面を固める)の古来より多くの中医師に愛用された名薬です。組成は、黄芪(おうぎ)白朮(びゃくじゅつ)防風(ぼうふう)の三種類で、黄芪が大きな屏風の役目で(補気、固表、止汗)、白朮は健脾祛湿(消化機能を元気にし湿気をとる)で気の生成を促し、防風で侵入してきそうな邪気を駆除する役割です。戦に似ていて、大きな城壁を立て、その中で生産を促し、そして城壁には衛兵を配置し侵入する敵を駆除する、という具合です。
 ただし、この三味の生薬はすべて体を乾かす傾向のものなので、「陰虚」(液体成分の血・体液などが不足し、消耗、乾燥状態になること)の人は玉屏風散だけで予防してはいけません。陰虚の兆候として、平素より口渇、乾いた咳、時々火照り、自汗があり、たいていの人は舌は赤く苔が少ないです。この場合「陰」を補いつつ玉屏風散を使用する必要があり、その場合は「生脈散」と併用するとよいです。生脈散も日本では保険処方できないが一般用医薬品で発売されているのでAmazonや薬局で入手できます。




 
IMG_5444


 気虚、陰虚がみとめられる人であれば、上記処方を生薬で保険調剤でお出しできます。都築医院を含め、生薬を出せるクリニックで出してもらってください。
ちなみに玉屏風散を飲みやすい煎じ薬にしてもらいました
IMG_5449

日本で保険調剤できるエキス剤で対応したい場合、玉屏風散の代わりに「補中益気湯」
,、普段から風邪引きやすく、白い痰が出やすく、舌苔が白くて厚い人痰湿体質の方は「参蘇飲」陰虚の兆候もある人は「十全大補湯」、普段からちょっとしたことで胃腸トラブルを生じやすい人は「小建中湯」「黄耆建中湯」よいと思います。

 
IMG_5445
3115ECAA-C97F-4042-BD82-2C25596025F1
67E79522-C2E2-4038-AA41-F0464FFD96FF

IMG_5455


IMG_5447

 また、普段より脂っこい食べ物が好きで、舌苔が黄色で厚い濕熱体質の人の予防では「藿香正気散」(かっこうせいきさん)が中国でよく使われています。こちらも薬局で一般用医薬品として売られています。

FA6B9C8C-062C-4C0A-AD54-8C4FEC88EEEE



(こちらの薬価収載のエキス顆粒で代用なら「平胃散」「胃苓湯」が考慮されます)
6F1C63DA-C7BA-497C-9647-126C83AB2E64
7EA3E210-9539-4474-A0AA-A847D494BBAE




 最後に、「湿邪」を飛ばすのに最高なのは「陽気」です。陽気を補う最高な方法は、自然界最大の陽気=太陽にあたることです。人間の陽の面は背中です。つまり背中を太陽に向けてひなたぼっこするのは、予防行為の一つにもなるわけです。ぽかぽかの太陽、きもちいいですよね。
ではまた。





ここIMG_5448